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旧工業技術連絡会議福祉技術部会の設立(ご参考)

この内容は旧福祉技術部会設立当初のものであり、現在の医療福祉技術分科会の現状とは異なる部分もありますのでご注意ください。

「工業技術」平成12年1月号

 中村 吉宏
 福祉技術部会設立発起人会世話人
 生命工学工業技術研究所

はじめに

 超高齢社会の到来に備え、ニーズに的確に応えた福祉技術の開発が極めて急務となっている状況のもとで、今般、工業技術連絡会議に新たに福祉技術部会が設立された。

 工業技術連絡会議(以下「工技連」)とは、通産省工業技術院傘下の国立研究所(以下「国立研」)と全国の公設試験研究機関(以下「公設試」)との連携組織で、専門分野毎あるいは地域毎に情報交換、研究交流、共同研究等を実施しており、現在約180機関の公設試ほか国立研や自治体、通産省関係組織が参加している。

 これまで、機械金属、物質工学、窯業、資源環境、生命工学、電子、繊維の7分野毎に連合部会を構成し活動してきたが、分野横断的で緊急な課題である、福祉技術分野で新しく部会を設立する気運が高まり、構成員500名を超える福祉技術部会が発足した次第である。

 この場を借りて、福祉技術部会設立に至る経緯、総会の様子、活動状況、産学官からの期待等をご紹介したい。

福祉技術部会設立に至る経緯

 平成11年2月に開催された、平成10年度工技連総会で承認された工技連の運営改善提言の中で、共通的な課題や技術分野をまたがる課題、緊急性を有する課題などを検討するため、必要に応じて総会直下に新たに「部会」を設置できるものとされ、早急に設置を検討すべき部会として、福祉に関する部会とデザインに関する部会が挙げられた。

 これより以前に部会設立の背景として、従来機械・金属連合部会の福祉機器研究会と生命工学連合部会の人間工学・福祉技術シンポジウムが別々に開催されていたが、参加した公設試の多くの方から、両者の一体化を望む声が上がっていた。

 これらの背景のもとで、4月に、工業技術院地域技術課の呼びかけで、機械・金属連合部会、生命工学連合部会の関係者が集まり協議した結果、福祉技術部会(仮称)の設立に向けて準備を進めることが合意され、設立趣意書案作成、設立発起人呼びかけ、各連合部会総会での報告など当面の対応を検討した。

 7月に、国立研4機関、公設試12機関の設立発起人による設立趣意書が完成し、工技連メンバー機関、通産省内関係部署、外部関係機関等、

 約300機関へ設立趣意書を発送し、新福祉技術部会への参加を呼びかけた。その際、関係企業、大学、団体等へも国立研、公設試を通じて参加を呼びかけ、参加登録は職員単位とし、各機関でまとめて登録する方式を採用した。

 8月に、工技連運営規程が改正されたことを受けて、福祉技術部会の運営要領案を作成した。外部関係者も国立研、公設試等の推薦により部会構成員となる、開かれた組織を目指した。

 9月、工技連企画調整委員会長宛に部会の設立を申請、9月10日付で同委員会において福祉技術部会の設置が議決された。

設立総会・第1回福祉技術シンポジウムの開催

 10月28・29日、設立総会及び第1回福祉技術シンポジウムが筑波研究センターの共用講堂で開催された(総会写真)。参加者は、国立研・通産省関係46名、公設試80名、大学7名、一般45名の計178名であった。設立総会では、事務局となる国立研の機械技術研究所(以下「機技研」)、生命工学工業技術研究所(以下「生命研」)から榎本、地神両次長の挨拶、部会設立の準備を支援して頂いた工業技術院地域技術課の高橋振興班長の挨拶、都合により出席頂けなかった中小企業庁林技術課長のメッセージ披露に引き続いて、部会設立の経過報告、運営要領案、体制案、当面の事業計画案の提案が行われ、承認された。

 福祉技術部会長に機技研の甲田首席研究官、副部会長に生命研の口ノ町人間環境システム部長が選出され、幹事は設立発起人機関から専門分野の代表者を登録してもらうこととなった。事務局は機技研、生命研が担当することとなった。

 総会後の記念講演会では、福祉機器メーカーの株式会社日本アビリティーズ社長 伊東弘泰氏から「福祉技術研究開発に望むこと-売れる福祉機器と売れない福祉機器-」と題して、実践に即した示唆に富んだ講演を頂いた(講師写真)。また通産省機械情報産業局医療・福祉機器産業室荒木室長、生活産業局人間生活システム企画室千野室長、工業技術院鈴木医療福祉機器技術企画官(当日欠席)及びNEDO医療福祉機器開発室栗原主任研究員から、本分野に関する政策紹介が行われた。翌日は同会場で、福祉技術に携わる産学官の広範な研究開発現場から、高齢者、障害者向けの製品開発や解析評価技術など16件の事例発表が行われ、熱心な意見交換が行われた。

活動状況

 設立総会時点で、構成員は536名。内訳は、国立研113名、公設試251名、通産省関係57名、地方公共団体19名、企業60名、大学36名となっている。新部会は、国立研、公設試の推薦により、福祉に関連又は関心のある企業、団体、大学、施設等の職員の参加も可能としたことが、これまでの工技連組織からの大きな進展である。外部関係者も全体の2割に達している。学会とは一味ちがった、より現場に近い研究者、技術者、行政関係者が参加するユニークな組織の誕生といえよう。

 発足間もないこともあって、事業の企画担当の幹事会が設置されていないため、部会としてまとまった事業はこれからという状況であるが、設立総会では、当面の事業活動として、研究発表会・シンポジウムの開催、メーリングネットを活用した情報交換・技術相談、グループによる勉強会・共同研究、技術講習会等が承認されている。なかでも、メーリングネット上での意見交換は毎日のように行われている盛況ぶりで、11月末ですでに200件を超えている。技術相談、シンポジウム等の開催案内、講師や視察先の紹介依頼、助成事業の募集等、あらゆる情報が提供され、交換されている。

 なお来年度の第2回福祉技術シンポジウムは、出席者の便宜を考慮し、国際福祉機器展(平成12年9月12〜14日)に合わせて開催する予定である。

産学官構成員からの期待

 最後に、産学官各セクターの構成員である3名の方に、新部会への期待を寄せて頂いたので、以下にこれらをそのまま掲載してご紹介したい。

 福祉技術部会の設立の意義について
 (有)グロ−バル取締役社長 徳丸 弘
 
  この度、福祉技術部会が設立され、工業技術院傘下の技術的資源が横断的に結束する
 だけでなく、省庁を超えた福祉関連部門、利用者、学、産の参画がされ、知見を共有し
 て行く場が出来た事により、次の点で有意義だと感じます。社会保障システムとして、
 安心し、然も持続可能な健康・介護生活環境を築く上で、社会-経済のメカニズムに基づ
 くソフト、ハ−ド、及びそれらの統合的最適オペレ−ションを達成すべく、システム化
 が求められる中、介護サ−ビス事業を含む利用者ニ−ズ、臨床要求、関連技術資源、及
 びそれらの有効利用を図るインフラ、更にその実践を高揚する社会教育といった事が有
 機的に結束され、最適な生活環境を築く場が出来たという事です。 
  この達成は一朝一夕にはならないものの、今後、本会には、従来の概念に囚われた個
 別の専門技術の範囲に留まる事無く、地域社会生活という複合システムの中で、どのよ
 うな位置付けで、その要求を満たして行くのかという事を、経済を含む生活の視点か
 ら、体系的に共に構築して行くフレ−ムワ−クとなる事を期待しております。  
 福祉技術部会設立総会およびシンポジウムについて
 日本福祉大学 教授・工学 博士 山羽和夫
 
  わが国は福祉技術をこれまで北欧などの福祉先進国に大いに学んできた。しかしなが
 ら、世界に例がない速度で進んでいる日本の高齢化の現状を考えると、これまでの外国
 から学べば済むという考えではなく、日本の高齢化の速度に適合したオリジナルな知的
 資源が必要になってくることが理解できる。 
  このオリジナルな知的資源を育む学問の1つに老齢工学(ジェロンテクノロジー)が
 ある。福祉系の大学教育者としては早い機会に純粋な福祉工学部を提案したいと思って
 いる。 
  福祉技術は泥臭さがあるゆえに実用化に向けて乗り越えねばならないバリアも高い。
 このようななかで産官学が相互扶助の精神で当たればそのバリアも容易に乗り越えられ
 よう。今まさにそのスタート時期であり、本部会の工業技術院−公設試と現場を交えた
 新しい取り組みや大学を含めた指導体制の確立に大きな期待を抱いている。 
  今後、参加各機関の相互協力が必要となるが、これを機に福祉に関する情報の共有
 化、特に、福祉系大学などに有する知的資源の有効活用を大いに願う次第である。  
 福祉技術部会設立に当たって
 岡山県工業技術センタープロジェクト室
 医療福祉機器開発チーム専門研究員 椋代 弘
 
  私達、公設試において福祉用具開発に携わる者にとっては、平成5年の福祉用具法の
 施行以来のカルチャーショックである。業界にとっては、介護保険法の施行の方が大き
 な割合を占めるかも知れないが、地方において地元企業の支援、育成に努める者にとっ
 ては、今回の福祉技術部会の設立の方が影響が多い。 
  これまで、生命研の福祉技術シンポジウム、機技研の福祉機器研究会があったが、各
 県公設試、企業、国研が一同に集まっての研究会といった意味あいであった。それなり
 に情報の交換ができ、有意義なものであった。しかし、何か物足りなさがあったのも事
 実である。全国レベルのリハ工学カンファレンス、介護福祉学会に肩を並べる部会の設
 立が暗に望まれていたのかもしれない。 
  形式的に整ったというだけでなく、統一した時と場所と考えの元に提供される情報、
 発信される情報の交換は大変意義深いものである。地元に帰って、的確な情報を自信を
 もって展開し、伝えていくことが可能になったことは、大変喜ばしいことである。 

おわりに

 福祉技術部会に寄せる構成員の方々の期待は大きい。総会では、全国の公設試のポテンシャルマップ(例えば、所有機器、評価技術の体系化)の作成も提案されている。情報交換の次の事業が鍵となろう。メールネット上で、毎日にように行われている構成員間の率直な意見交換の中から、即ち、構成員の秘められたパワーから、自らの生き生きとした事業が展開されるに違いない。

ページ管理者:産業技術総合研究所 人間情報インタラクション研究部門 高橋昭彦

最終更新時間:2009年06月23日 11時23分04秒